第5回うつ病のあれこれ~うつ病の治療・精神療法編~

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前回第4回では、うつ病の薬についてお伝えしました。

しかし、うつ病の治療は薬だけではありません。専門的な精神療法も重要な治療の選択肢です。

第5回では、どのような精神療法がうつ病の治療で行われるのか、引き続きKさん(架空の人物)の例でご説明したいと思います。

Kさんのケース


Kさんは会社を休み、自宅で休養をとることになりました。

抗うつ薬も開始され、徐々に夜眠れるようになってきました。食欲も少しずつ戻り、顔色も明るくなってきました。


1月半ほど過ごした後、以前よりあれこれと考えられようになってきました。

しかし、色々考えるようになった分、Kさんは焦りを感じるようになってきました。


「会社はどうなっているんだろう…」

今後、産業医を交えた面談なども予定されていますが、焦りが募ってきます。


「早く復帰しなければ」と思う一方で、「でも、こんな状態の自分が戻っても職場のお荷物だよな‥」と考えてしまします。

そんな中、受診の日を迎えました。


医師「睡眠、食事もとれていますね。順調な経過と思います」


Kさん「ありがとうございます。ただ、最近は会社のことが気になって…部下のためにも早く復帰しなければと思うんです。でも、こんな自分が戻っても、みんなに迷惑が掛かるかなって」


医師が職場で体調を崩した原因を聞くと、どうやらKさんは様々な場面で「自分がやらなければ」と思い、仕事を抱え込んでいたという事です。


「部下に任せられない」とKさんは言います。もともと真面目で完璧主義のKさんは、部下がミスをすることがどうしても許せず、何事もきちっとしていないと許せないのだ、と話しました。


医師「なるほど、そうなんですね。Kさんが高い評価を受けるのは、その頑張りがあるからなんですね。多少仕事量が多くても優秀なKさんであればこなせると思いますが、仕事量がかなり多くなった時が心配ですね。きっとKさんは、いつも通り質の高い仕事をしたい、でも他の部下に任せるのは不安、自分でやらないと、と思ってしまうでしょうから。」


Kさん「そうですね、今回それを痛感しました…。でも職場に戻ったら、同じことをしてしまいそうです…」


医師「それはもしかしたらKさんの考え方の癖かもしれないですね。これから職場に戻ることを考えると、その考え方の癖について一度考える機会を持っても良いかもしれませんね。」


医師はそういうと、クリニックに勤務している臨床心理士と共に、認知行動療法を行うのはどうか、と提案しました。


医師「認知行動療法は、自分自身の考え方の癖を把握して、そこにもし硬さがあれば、それを柔らかくしていくものです。例えば〇〇しなければならない、という考え方があったとすれば、他にも〇〇という考え方も、〇〇という考え方もある、というように考え方の選択肢を増やします。その結果、気持ちが楽になったり、結果として仕事を抱え込んでしまう、という行動が少なくなることが期待できます」


Kさん「ポジティブな人間になる、ということですか?」


医師「それは少し違います。考え方が前向きになる、というよりは、より生きやすい考え方を増やせるようになる、という事です」


Kさん「わかりました。やってみようと思います」


2週に一回の外来に加え、認知行動療法も2週に一回行うことになりました。



精神療法には、第4回の一般的に行われる「支持的精神療法」と、体系化された精神療法があります。

体系化された精神療法は、中等症以上のうつ病について有効であるとされています。


第4回でご紹介した「当事者・家族のためのわかりやすいうつ病治療ガイド」の説明をお借りして書きますと、


①認知療法、認知行動療法:ものの受け取り方や考え方に働きかけてストレスに上手に対応できるこころの状態を作っていく精神療法

②対人関係療法:身近にいる重要な人との現在の関係に焦点を当て、その対人関係における態度やコミュニケーションの在り方を考えていく精神療法

③力動的精神療法:対話や関わり方の中で、当事者が意識していない症状の原因を分析し、当事者自身が受容できるよう援助することで症状の改善を目指す治療法

④問題解決技法:問題点を整理し、解決可能な対策を行い、最後に振り返る方法のこと


があります。また、現時点ではまだ十分なエビデンスは示されていませんが、他にも効果的と考えられる精神療法があります。


この中で、日本では①認知療法・認知行動療法については保険適応になります(他の精神療法でも一般的な「通院精神療法」の範囲内で保険適応で行う場合も多くあります)が、専門のトレーニングを受けた医師などの専門家が行うため、すべての医療機関で受けられるわけではありません。


しかし、治療が必要な状態でも妊娠中などの理由で薬を飲むことができない方などに積極的に検討する治療法となります。

これらの専門治療を希望する場合は、かかりつけの医師と相談する、またはインターネットで治療をしているところを探す、などをしていただければと思います。


以上が精神療法のご説明になります。

最後の第6回では、視点を変えてご家族の支援方法や、ご家族に対するサポートについてお話しできればと思います。




執筆者

精神科医

【所属】

医療法人社団敬聴会祐天寺松本クリニック

   【資格】

精神科専門医

公衆衛生学修士



松本 衣美

(まつもと えみ)





第3回:うつ病のあれこれ~うつ病はどうやって診断されるのか~


第4回:うつ病のあれこれ~うつ病の治療・薬物編~




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