第3回:うつ病のあれこれ~うつ病はどうやって診断されるのか~

記事

~Kさんのケース~

Kさんは後日、妻が予約した精神科クリニックに妻に伴われ、受診することになりました。

番号が呼ばれ診察室に入ります。医師があいさつし、診察が始まりました。

~診察~


医師「Kさん、今一番お困りのことはどういったことでしょうか」

Kさん「ええ…」


会社に行くときはしゃきっとしているKさんですが、髪型も乱れ、かろうじて洋服を着ましたが、整えることができていません。


いつもの はつらつさは影を潜め、表情の変化は見られません。

医師からの質問についても、頭がうまく回らず、言葉が出てこない様子です。

Kさんにこれ以上負担はかけられそうにないと医師は判断し、妻に答えてもらっても良いか、Kさんに了承をもらいます。

Kさんがかすかに首を縦に振ったのを確認し、医師は妻に質問を投げかけました。


医師「Kさんはいつからこのようにお辛い様子なんでしょうか」

妻は2カ月前に昇進が決まり、張り切っていたこと、しかしその後帰宅時間が遅くなり、毎日仕事のことに悩み睡眠もよく取れていなかった様子だったこと、1週間前にとうとう体が動かなくなり、ベットから起き上がれなくなったことを話しました。医師は頷きながら妻の話に耳を傾けます。


医師「それは大変でしたね。今は会社はお休みされているのですか」


妻「会社には私が電話をして、2日ほどお休みを頂きました。その後はかろうじて会社に行っていますが、仕事がちゃんとできているかどうか…自宅に帰ると疲れてすぐに寝てしまいます。食事をとるように行っても「いらない」と言いますし。夜も横になるだけで充分睡眠がとれている様子もないです。何度も目が覚めるし、朝早く目が覚めて、その後眠れないみたいで」


医師「ほかにもいつもと変わった様子がありますか」


妻「以前は帰ってくると、寝る前に推理小説をみることを楽しみにしていたんです。ただ、この1か月はその気力もないようで。活字を見るのが辛いらしくて、新聞も読まなくなりました。」


医師はそれ以外にも、妻のわかる範囲で、Kさんのことを聞いていきます。

その中には、どこで生まれたのか、親は健在か、兄弟はいるのか、学歴や職歴、性格、これまで体や心に不調をきたしたことがあるのか、毎年の健診結果で異常となる項目はないか、血縁の中に精神科や心療内科を受診したことがある人がいるか。

また飲酒のペースや喫煙の有無、現在飲んでいる薬などを確認していきます。


特に、熱心に聞いたのが、これまで同様の症状があったことがあるか、逆に気持ちが高揚し、寝る間を惜しんで精力的に働いたことがあるかどうかです。


それがないことを確認し、医師は最後にKさんに向き直ると、ゆっくりと話しかけました。


医師「Kさん、これまで大変でしたね。最後に、とても大事なお話ですので、お答えいただければと思います。これまで「死にたい」あるいは「消えたい」と思ったことはありますか」


Kさんはぽつぽつと、漠然と死にたいような気持になることはある、ただ、家族のことを考えてそれ以上は考えないようにしている、と話しました。


医師は頷き、Kさんと妻に、診断は「うつ病」と考えられること、体の病気を除く必要があり血液検査も念のため受けてほしいことを伝えました。


実際の診察場面では、このように診断のための聞き取りが進んでいきます。

うつ病の診断では、気持ちの落ち込みや、興味・関心や喜びの喪失を確認し、それ以外にも、食欲の有無、睡眠がとれているか、意欲がなくなっていないか、自分を責める気持ちがないかなどの症状、またそれらの症状がどの程度持続しているのかを聞きます。


ご本人がうまく話せないこともあり、その時は同居されている家族からの情報が重要となってきます。


また、言葉だけではなく、客観的にご本人の様子を見る(洋服や髪型は整っているか、表情の変化はあるか、焦っているような様子はないか、質問への返答時間が遅くなっていないか)ことも重要です。


それ以外にも、体の病気の有無や薬などの影響なども聞き取り、診断の材料としていきます。


また、双極性障害(元気でパワフルな躁(そう)状態とうつ状態を繰り返す)が隠れていないかを知ることも治療方針を決定する上で重要です。

万が一「死にたい」気持ちが強ければ、入院が可能な病院と連携し、入院を検討することもあります。

この聴取は念入りに行う必要があります。


また、うつ病の診断と治療は一般的に精神科、心療内科で行われます。

そのため、上記のような症状が出た場合、どちらかの科を受診することになります。

精神科、心療内科の違いですが、心療内科は内科に起源をもつため、「体の症状」が主となる患者さん(例えば、ストレスによって下痢や便秘が引き起こされる過敏性腸症候群)を診ます。


精神科は「精神の症状」が主となる患者さんです。

しかし、皆さんも実感されるように精神と体は密接に関係しており、中々切り離せるものではありません。

精神科と心療内科、両方を看板に掲げているクリニックも多いのではないでしょうか。

どちらの科でも、対応している疾患が重なっていますので、まずはこれらの科にご相談いただければと思います。


診察室で行われていることにイメージがわきますでしょうか。(※診察内容は医療機関によって異なる場合があります)

第4回では、治療についてご説明したいと思います。




執筆者

精神科医

【所属】

医療法人社団敬聴会祐天寺松本クリニック

   【資格】

精神科専門医

公衆衛生学修士



松本 衣美

(まつもと えみ)





第1回:うつ病のあれこれ~Kさんのケース~・


第2回:うつ病のあれこれ~なぜうつ病になるの?~




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