第2回:うつ病のあれこれ~なぜうつ病になるの?~
第1回では、具体的に臨床で経験するケースをあげて、お伝えしました。
それでは、なぜうつ病は引きおこされるでしょうか。
現時点では、遺伝的要素とストレスなどの心理社会的要因が絡み合った結果起こるのではないかといわれています。
①発病の危険因子
遺伝的要因
これまでうつ病について、遺伝的な研究がおこなわれています。
その中で、うつ病患者さんの近親者がうつ病にかかる頻度は、うつ病患者さんが近親者にいない人よりも、発症する頻度が高いことが言われています。
これは遺伝的要因が関わっている証拠の一つとなっています。
しかし、もしうつ病が遺伝的要因のみにより起こるのであれば、遺伝子が一致している一卵性双生児では、必ず二人ともうつ病になるはずですが、実際はそうではありません。
ご家族の中にうつ病の方がいらっしゃるからといってご自身もうつ病を発症する、というわけではないのです。
うつ病の発症には、遺伝的要素ともう一つ、心理社会的要因が絡んでいるといわれています。
心理社会的要因
心理社会的要因とは、ご本人の心の状態やご本人を取り巻く社会的状況を指します。
まず、うつ病発症で大きなリスクとなるのは、ご本人にとって「ストレスになるような出来事」です。
ストレスは人間関係や仕事、病気など、様々な原因によって引き起こされます。
その他、ご本人を取り巻く状況として、周囲の支援がない場合もリスクとなりえます。
周りの方が気づき、ご本人をサポートできていたか否か、という点が重要となってきます。
これらは単独で引き起こされるわけではなく、様々な要因が重なり合ってうつ病になるリスクを高めるといわれています。
以上より、遺伝的要素がある上で大きなストレスがかかった時に発症のリスクが高まる、といえます。
②ホルモン、神経伝達物質の異常
先ほど、①で書いたように、うつ病の発症には、ストレスが大きくかかわっています。
しかし、同じストレスでも発症する人としない人がいます。
これは、遺伝的要因も含め、もともと持っている「ストレスへの弱さ」が関わっているとされ、専門用語では「ストレス脆弱性」といいます。
残念ながら、なぜこの「ストレス脆弱性」がうつ病の発症に結び付くのか、ということについては、未だ解明されていません。脳の中で神経の間を行き来し、情報を渡している物質(神経伝達物質)の異常がうつ病を引き起こす原因ではないか、という説(現在のうつ病の治療薬はこれらの伝達物質の量を調整するもの)、そのほかに、ストレスがかかった時に脳などから放出刺されるホルモンの経路に障害があるのではないか、などの説があります。
例えば、脳内伝達物質が確実にうつ病の原因であれば、抗うつ薬を服用することで全ての方が治ることになりますが、残念ながら抗うつ薬で治療を行っても約10%の方は充分な効果が得られないといわれています。
いまだ解明されていない謎があり、今現在多くの研究がおこなわれています。
その他、体の病気、栄養状態、服用している薬によっても、うつ病のような状態を引き起こすことがあります。
そのため、うつ病のような症状があった際、クリニックにいらっしゃった方には、体の病気の有無や飲んでいるお薬を丁寧に聞き取り、場合によっては血液検査を行います。
例えば、血液検査では「甲状腺機能」を測ることがあります。
甲状腺とは、喉のところにある臓器で、体を元気にするホルモンを出しています。
女性の方に多いのですが、この甲状腺の機能が落ちている場合、うつ病のような状態を引き起こします。
まとめ
以上のように、うつ病の原因については、遺伝的要因、心理社会的要因が絡んでいます。
そして、類似の症状が身体的病気で引き起こされることがあります。
そのため、精神科や心療内科を受診される際は、丁寧な聞き取りと、体の病気がないかどうかを調べることが重要となってきます。
それでは、うつ病はどのように診断されるのでしょうか。
第3回では、うつ病の診断についてご説明をしたいと思います。
執筆者
精神科医
【所属】
医療法人社団敬聴会祐天寺松本クリニック
【資格】
精神科専門医
公衆衛生学修士
松本 衣美
(まつもと えみ)
「もうちょっとだけ」の寝不足で、気づかないうちに・・
第1回:うつ病のあれこれ~Kさんのケース~