第4回:うつ病のあれこれ~うつ病の治療・薬物編~

記事

~Kさんのケース~

医師は現在のKさんの状況から「中等度のうつ病」と考えました。

現在、かろうじて会社には行けているものの、病状は徐々に悪化しており、自分を責めたり、死にたいと思う気持ちも出ており、早急に休養を取らなければ、リスクが高いと判断しました。


Kさんと妻に説明を行います。

医師「今のKさんの状況を考えると、仕事に行くことが困難であり、ご自宅でも横になっていることが多いとのこと、中等度のうつ病と考えてよいと思います。」


次に医師は今後の治療方針について伝えます。

医師「うつ病の最も大事な治療は、休養をとることです。今の状態ではKさんの体が回復することができません。私の方で診断書を書きますので、まずは休養を取りましょう」


Kさんはうつむいたままでしたが、隣に座る妻が頷きました。


医師「次に今後の当院での治療についてご説明します」

医師は、うつ病に対して行われる薬物療法、精神療法について説明し、自宅療養のポイントについてKさんと妻に伝えました。


医師「診察の間隔ですが、まずは1週間に一度の通院にしたいと考えています。これは、Kさんのご様子をこまめに見た方が良いと判断したこと、また、これから始まるお薬の治療で副作用が出ていないかを確認するためです。先ほどKさんは、死にたい気持ちはあるが考えないようにしている、と教えてくださいました。ただ、うつ病の方の場合、症状として、どうしても自分を責めてしまったり、頭が回らずに悲観的な思いしか浮かばない、ということがあります。その結果、どうしようもなくご自分の命を危険にさらしてしまう事もあるかもしれません。その時は受診日を待たず、必ず当院へ連絡してください。今が一番つらい時期です。みんなで一緒に乗り越えましょう。」


Kさんが微かに頷きました。



これからKさんの治療はどのようになっていくのでしょうか?

うつ病の治療は、まず重症度を判断し、どのような治療が必要かを考えます。治療では基礎的な介入と、状態によって薬物治療を行うことになります。

①重症度

治療は、重症度によっても異なります。

うつ病は、「軽症」「中等症」「重症」の3つに分類されます。

厳密には専門家が使う評価尺度で分類しますが、「うつ病治療ガイドライン」を当事者の方、家族の方向けに解説した「当事者・家族のためのわかりやすいうつ病治療ガイド (日本うつ病学会当事者のためのガイド小委員会編集)」では、交流関係・自宅での様子・社会生活の状態で、重症度の目安を示しています。


友人との交流が減っている、家事がおろそかになる、仕事には行っているが、同僚とのコミュニケーションがうまくいかない、では軽症、友人との交流がほぼできない、自宅で横になっていることが多い、仕事や学校に行けない、が中等症、重症のうつ病では、日常生活にも支障をきたし、介護が必要なレベル、などです。

②治療:基礎的介入


「支持的精神療法」が治療の基本となります。

これは、精神科医・心療内科医が患者さんのお話に耳を傾け、共感し、問題解決のためのアドバイスを行うことです。

また、心理教育も重要となってきます。患者さんは、自分が今どのような状態で何が起こっているのかわからず、不安なことが多いです。

また、もしかしたら「自分は怠け病だ」と思ってしまっている方もいるかもしれません。

その時に、「現在の状態」「今後の経過」「治療」など、患者さん、ご家族とともに相談し、安心して治療を受けていただく環境を作ることも医師の重要な仕事となっています。

③治療:薬物療法


軽症の方では、休養を取っていただくこと、また、上の基礎的介入を行うことが中心となります。

しかし、食欲や睡眠の障害が強いなどの場合、そのほか、中等症、重症の方の場合は薬を処方することがあります。


うつ病でよく使われる薬としては、

・抗うつ薬

・抗不安薬

の2種類があります。


「抗うつ薬」は「不安」「気持ちの落ち込み」「意欲の低下」「興味関心がなくなる」などの症状に効果を発揮します。

これは、脳内にある神経伝達物質であるセロトニン、ドパミン、ノルアドレナリンを調節することで症状改善に役立つといわれています。抗うつ薬は数種類あり、どの症状を中心に改善したいかで薬を使い分けます。


「抗不安薬」はその名の通り、不安に効果を発揮します。

うつ病の方で不安が強い場合に、抗うつ薬と並行して飲んでいただくことがあります。


ただし、薬によっては依存性の問題や、注意力低下、転倒のリスクが高くなることがあり、長期の使用は推奨されていません。


また、いずれの薬も副作用があるため、服用を開始する際は医師とよく相談の上、万が一副作用が出た場合どうすればよいか相談しておくことも大事です。


うつ病の方の治療を主に薬物治療を中心にお話ししました。

第5回では薬物療法と同じくらい重要な、精神療法についてご説明したいと思います。


執筆者

精神科医

【所属】

医療法人社団敬聴会祐天寺松本クリニック

   【資格】

精神科専門医

公衆衛生学修士



松本 衣美

(まつもと えみ)





第3回:うつ病のあれこれ~うつ病はどうやって診断されるのか~


第2回:うつ病のあれこれ~なぜうつ病になるの?~




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