膝関節のメカニズムとストレッチの重要性
近年、健康意識が高まるとともに、若者だけでなく高齢者のスポーツ愛好者が増えてきています。
このコラムをご覧いただき、膝関節のメカニズムから理解していただくことで、皆様の健康生活の一助となれば幸いです。
膝の関節は、太ももの骨(大腿骨)、すねの骨(脛骨(けいこつ)・腓骨(ひこつ))、そして膝のお皿(膝蓋骨)から成る関節です。
曲げ伸ばしを主とした関節構造(蝶番関節(ちょうばんかんせつ))であり、運動機能としては非常にシンプルな構造ですが、下肢の運動中心部に非常に大切な関節です。
<膝関節の3つのポイント>
膝関節のみならず関節全般に言えることですが、十分な可動域と安定性、そして筋力が重要です。
①しなやか ②しっかり ③力強くです。
膝の可動域 ①“しなやか”に
膝関節を曲げることを屈曲、伸ばすことを伸展といいます。
屈曲は130度、伸展は0度が正常範囲です。
膝が伸び切らない場合、-10度などマイナスで表現します。
正座は屈曲150度と言われ、生理的屈曲範囲を超えた運動です。
あまりおすすめできる肢位では無く、正座ができなくても落ち込む必要はありません。
年齢を重ねると、膝関節可動域は減少します。
とくに伸展制限が目立つことが多く、軽度屈曲したままの状態(屈曲拘縮)となることが多いです。
膝の屈曲拘縮は膝関節自体への負担、そして腰椎や股関節への負担となりますので、しっかり膝をのばすことを心がけましょう。
膝の安定性 ②“しっかり”と
膝関節は靭帯によりその安定性が維持されています。
関節の内外側に側副靭帯、内部に十字靭帯があります。
側副靭帯が切れると、膝がX脚、O脚のような肢位となり、不安定になります。
また十字靭帯が切れると、前後方向、下腿のねじれに対して不安定になります。
靭帯自体はトレーニングで増強することは難しいですが、周囲を柔軟性のある筋肉で補強することで安定性を維持することが可能です。
膝の筋力 ③“力強く”
膝関節には、立位・歩行時は体重の3倍、階段歩行・ジャンプ時は体重の5倍、ランニング時は体重の10倍負荷がかかると言われています。
膝関節の負担を減らすためには、周囲の筋力を維持することが重要です。
膝を伸ばす筋肉は前面にあり、主に大腿四頭筋(大腿直筋 内・外・中間広筋)が作用します。また膝を曲げる筋肉は後方にあり、主にハムストリングス(大腿二頭筋 半腱様筋 半膜様筋)と言われる筋群が作用します。
これらの多くは股関節・膝関節と連動した2関節筋ですので、股関節の運動と併せて膝関節周囲の筋力を維持する、という意識が必要です。
しなやか しっかり 力強く あるためには
膝関節の可動域、安定性、筋力はそれぞれ独立した重要な要素です。
そのため、たとえば膝の筋力を急激に鍛えると関節が固くなり、可動域や安定性を損なってしまう場合があります。
膝関節の特性を理解したバランスの良いトレーニングが望まれます。
今回おすすめしたい運動は、以下の2つです。
ハムストリングス 伸展ストレッチ
膝関節は、後面の筋肉が固くなり屈曲拘縮する傾向があります。このため、膝後方のハムストリングスを積極的に伸ばすストレッチが効果的です。
図のごとく椅子に座り背筋を伸ばした状態で体感を前に傾け、膝の裏を伸ばしましょう。
“痛い”と思った寸前で止め、20~30秒キープします。これを左右3セットしましょう。
【行う目安】 {1回10~30秒 × 左右} × 1日3~5セット
2セット目から、驚くほど膝の裏が伸びることが実感できると思います。
なお、この運動は、深部温の上昇しているお風呂上がりに特に効果があります。
大腿四頭筋訓練
椅子に座っての大腿四頭筋訓練は、膝関節安定化にとても効果的です。
膝を伸ばした状態で、20~30秒キープする運動です。これを左右3セットしましょう。
【行う目安】 {1回20~30秒 × 左右} × 1日3セット
膝関節に全く負担はかけませんし、前記のハムストリングスストレッチと同様、テレビやスマホを見ながらで自宅でも簡単にできる優れた運動法です。
さいごに
今回膝関節を3つの要素に分けて説明をさせて頂きました。
可動域と筋力は努力で維持可能ですが、安定性については、一度靭帯を損傷してしまうと、その機能改善が難しい部分があります。膝関節安定性がご心配な方は、膝関節のサポーターなどの装着で安定感を出す方法もございます。
今回ご紹介したようなストレッチで健康的な膝を維持しましょう。
みなさまの健康生活の一助となれば幸いです。
執筆者
プライムホスピタル玉島 理事長
日本専門医機構 日本整形外科学会専門医
西山 武
(にしやま たけし)
【資格】
日本整形外科学会専門医
一般社団法人 スポーツ医学検定機構 スポーツ医学検定 1級
日本整形外科スポーツ医学会 会員
職歴
平成12年 東京慈恵医科大学卒業
平成12年 岡山大学病院 臨床研修
平成14年 吉備高原医療リハビリテーションセンター 整形外科
平成15年 福山医療センター 整形外科
平成16年 香川県立中央病院 整形外科:整形外科専門医取得
平成19年 高知医療センター 整形外科:救急外傷を担当
平成21年 岡山大学病院 救急医学講座医員:三次救急・集中治療室を担当
平成22年 岡山市民病院 寄付講座助教:ERドクターとして一次・二次救急を担当
平成23年 現職
令和3年より、近隣スポーツ機関、アスレチックリハビリテーション、スポーツファーマシスト、スポーツ栄養士の方々と連携し、玉島地区のスポーツ医療サポートの活動をすすめております。私自身、スポーツ医療の研鑽を深めてまいりたいと考えている。
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