仕事・勉強の最中に・・・・。 これって、ネガティブ?
ある日、講義が終わって提出物を教壇前で集めていた私のもとに、1人の女子学生さんが提出物を持ってトコトコと近づいてきました。
そして、提出し終わった後に「先生、お願いですが、お話している時の語尾に○○することを止めていただきたいです。やる気がなくなります。」と一言残していきました。
さて、皆さま、○○は何だと思いますか?
それは、「ため息」です。
私自身、講義中にため息をついていることに全く気付いていませんでした。まさか、語尾がため息になっているとは・・・。
確かに、「ため息をつくと幸せが逃げていく」とよく耳にします。
また、劇作家・詩人として有名なシェークスピアも、「恋は、ため息と涙でできている」と名言を残しています。
これは、私自身の解釈ですが、相手に対する切ない気持ちが募って、「はぁ」とため息が出たり、かなわぬ恋に涙したりということか・・・。と考えています。
いずれにしても、ため息をつくことは、ネガティブな印象がありますね。
そこで、今回のコラムでは皆さんが気付かないうちについている「ため息」が本当にネガティブなのかについてお話します。
実験の紹介
さて、ここである実験をご紹介いたします。
「ため息」と「通常の呼吸」が与える心理的効果の対照実験
大学生を対象に、A群とB群の2つにグループ分けをします。
A群は、ため息をつくグループ。一方、B群は、通常の呼吸を行うグループとします。
まず、両グループとも、ストレスがかかっている時の呼吸の成分を調べるという名目で、ビニール袋に呼気を吐き入れてもらいます。
この時、Aグループでは、「ちょうどため息をつくように」1回だけ息を吐き入れてもらいます。
一方、Bグループでは、通常の呼吸をしてもらいます。
次に、恐怖を喚起させる写真を数枚見せて、パズル課題とアルファベット抽出課題を行なってもらい、「恐さ」を測ります。ちなみに、これらの写真は「恐い」と思える動物や凶器の写真です。
その後、それぞれ所定の呼吸(A群:ため息、B群:通常の呼吸)をしてもらい、再び写真を数枚見せて、再び各課題を行なってもらいます。
そして、最後に全体の恐怖度を測ります。
その結果、パズル課題を持続して行なう時間は、A群の方がB群に比べて長くなりました。その他、恐怖度や課題集中度、アルファベット抽出課題には、A群とB群間で差はみられませんでした。
ため息をつくことにより、困難な課題に取り組む時間が長くなったと言えます。
このことは、困難な状況が続く中では、ため息をつくことで気持ちの切り替えができ、問題解決への動機づけが高まったと考えられます。
研究例は極めて少ないですが、ため息をつくことで、気分を切り替えリラックスできる、やる気が高まるといった心理的効果があることが期待できます。
「は~ぁ」ため息。
周りの人は、これを聞くとやはり「やる気が落ちる」「疲れているのかなぁ」など、ネガティブな反応が多いかもしれません。
しかし、ある学生さんから、こんな意見を頂きました。「先生、ため息は『は~ぁ』を『ふ~ぅ』に変えてやってみたらどうでしょう」と。
確かに・・・。
とは言え、私が生徒にしてしまっていた事と同様に、「ため息」は無意識に付いてしまうことが多く、気付かないうちに周りの方を不快にさせてしまっている恐れがあるかもしれません。
無意識に付く『は~ぁ』のため息だと周りの方へネガティブな印象を与えてしまうため、気分を切り替え、やる気を高めていく目的として、意識的に『ふ~ぅ』と深く大きく息を吐くように変えてみるといいかもしれないですね。
よし、コラムの原稿完了!「ふ~ぅ」。
執筆者
川崎医療福祉大学 医療福祉学部 臨床心理学科 教授
博士(心理学)
認定心理士
保野 孝弘
(ほの たかひろ)
川崎医療福祉大学では、心理学、睡眠学などを教えている。「わかりやすく」、「楽しい」講義を心掛けている。
また、地域貢献として、小中学校・高等学校、公民館に出向いて、「眠りの習慣と健康」について、子どもさんや保護者、ご高齢の方にお話ししている。
第1印象について
どれを選ぶ?迷える心