基礎代謝は上げられる?上げられない?
皆さんこんにちは、前回のコラムではダイエットと運動の基本を紹介しました。今回もダイエットにまつわる話題として、基礎代謝に関する話題を紹介したいと思います。
基礎代謝とは
基礎代謝とは、人間のエネルギー消費量を決定づける3つの要因の一つで、心臓の拍動や体温の維持など生命を維持するために消費されるエネルギーです。人間のエネルギー消費のうち最も多い割合を占めるエネルギー消費で、1日のエネルギー消費量の50%~80%を占めています。
組織別の1日あたりの代謝量と基礎代謝に占める割合
組織別の1日あたりの代謝量と基礎代謝に占める割合をみると、肝臓:361kcal/日・21%、脳:337kcal/日・20%、心臓:146kcal/日・9%、腎臓:136kcal/日・8%、筋肉:363kcal/日・22%、脂肪組織:67kcal/日・4%、その他の組織:270kcal/日・16%となります(体重70㎏男性の例)。
組織別に見ると筋肉による代謝量が基礎代謝に占める割合が最も多いことが分かります。
ダイエットにまつわる情報として「筋トレをすると筋肉が増えて代謝が上がる」「筋肉を増やして代謝を上げると太りにくくなる(やせやすくなる)」といったことを聞いたことがあるのではないでしょうか。
肝臓や脳を増やすことは難しいですが、筋肉であれば、筋力トレーニングを頑張ればちょっとくらい増やせそうな気がしませんか?
筋肉を増やすことで基礎代謝を増やすことはできるのか?
はたして筋肉を増やすことで基礎代謝を増やすことはできるでしょうか。
体重70㎏の男性では、全身の筋肉量は28kg程度(体重のおおよそ40%)であり、ここから計算すると筋肉1kgあたりの代謝量は13kcal/日程度です。
筋力トレーニングを頑張って筋肉の量を1㎏増やしたとしても、それに伴って増加する基礎代謝量はわずか13kcalです。1日の代謝量が13kcal増加したところで、太りにくくなったり、やせやすくなることがないことは容易に想像ができます。
また、上記で説明した通り、脂肪組織もエネルギーを消費しており、脂肪組織1㎏あたりの代謝量は1日あたり4.5kcalです。
仮に筋肉量が1㎏増加し、脂肪組織が3㎏減少したとすると、基礎代謝量は筋肉の増加に伴い13kcal/日増加しますが、脂肪組織の減少に伴い13.5kcal減少し、0.5kcalのマイナスになります。
従って、筋肉を増やしながら減量することでは、基礎代謝量を増加させることはできず、太りにくく、やせやすい体を手に入れることはできません。
実際には筋肉を増加させるために、十分な強度と量の筋力トレーニングに加え、十分な量のエネルギーとたんぱく質を摂取することが必要で、食事制限や有酸素運動によるエネルギー消費が必要な減量と筋肉の増加を同時に起こすことは極めて困難であると言えます。
どのようなときに基礎代謝は上がるのか?
では、どのようなときに基礎代謝は上がるのでしょうか。上記で説明した通り、身体の各組織はそれぞれ固有の代謝量(率)を有しています。このことは各組織の重量が増えると代謝量も増えることを意味しています。
すなわち、体が大きくなり、体重が増えると代謝量は増加します。
したがって、基礎代謝を増加させることと減量させることは全く逆の現象であり、基礎代謝を高めて減量につなげるということはあり得ないことであると言えます。
基礎代謝を増やして、体重を気にせず好きなものを食べたり、楽をしてやせたいところですが、どうやらそうはいかないようです。
やはり、減量の基本は運動・身体活動によるエネルギー消費量の増加と、食事制限によるエネルギー摂取量の制限です。
今後のコラムで減量と有酸素運動や筋力トレーニングの関係について詳しく説明したいと思います。
参考文献
減量しながら筋肉量および基礎代謝量を高めることは可能か?, 田中喜代治, 中田由夫, 体力科学, 第66巻, 3号, 209-212頁, 2017年
執筆者
川福医療福祉大学 医療技術学部 健康体育学科 純教授
川崎医科大学附属病院 健康診断センター 健康運動指導士
博士(健康科学)
日本陸上競技連盟公認審判員
全日本スキー連盟公認スキー準指導員
脇本 敏裕
(わきもと としひろ)
岡山県倉敷市にある川策医療福祉大学で健康づくりのための運動指導のスペシャリストである健康運動指導の養成に従事しています。川崎医科大学附属病院健康診断センターでは健康運動指導士として健康づくりのための運動指導に従事しています。
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